わにぞう日記
日常のなかでいろいろと見たり考えたりします。でも、多くは忘却してしまいます。何かの時に思い出せるように。交流の中で意見が深められたり変わったりするのもおもしろいですね。
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ゲド戦記
さっそく観てきました。評価としてはかなり厳しくなります。宮崎・高畑の旧世代の世界観がいかに深いものであったか。ジブリの新世代にはもはやそれを期待しようもないということが、あらためて明らかになったようにおもいました。ともかく思ったところを並べてみます。パンフレットも手元にないので、あやふやなところもありますが、不十分なところは今後のエントリーで補強していきます。
以下ネタバレがありますので、まだ観てない人は見ない方がいいと思います。

監督は宮崎吾朗です。彼は宮崎駿の長男です。この映画の第一の主題はまさに巨人を親に持つ若者の葛藤です。自信を持てず、さらに自分自身と向き合うことに対する恐れを抱いていた若者(主人公のアレン)が、ゲドら身近な信頼の置ける人たちの危機を契機にして勇気を持った人間に変わり、悪を滅ぼす。という物語です。この主人公アレンは実は国王の息子で、自信を持てないので切れやすく、この国王を刺し殺して放浪の途上にあるという、よく考えてみると相当けしからん設定です。
この映画にはもう一つ主題があります。永遠の命を入手しようとする魔女の存在です。ゲドらに降りかかる危機は、この魔女によって仕掛けられたものです。この魔女のたくらみは明らかに、現代文明のありかたを象徴するものとして意図されています。このたくらみは社会のレベルにおいて、家畜の病気の流行や干ばつの多発、農業の衰退といった問題につながっている様子です。
これらの問題を解決するカギは何か。ひとつは、「永遠の命に寄りかかっている限り、死を単に恐れている限り、決して本当に生きることはできない」ということに気づくこと。そして、もうひとつは自信と勇気を持つことです。

アレンの心理的葛藤

自分を肯定できない。そのために自分自身と立ち向かうことができない。そしてひいては周囲の人間社会・歴史の主人公となることができない。このことは確かに現代の若者に特徴的な問題だという気がします。「ゲド戦記」はこの問題点を、アレンの人格を通じて上手に提示しています。
ゲドら、信頼を置ける人びとを象徴する生活ぶりは、自然とともにあることと、家族的なあたたかさです。普通、こういう環境に触れることによって主人公の心は癒され、物語は解決に向かう、ということになりそうなのですが、この映画の中で少しおもしろいと感じたところは、そうは問屋が卸さないというところです。
この<自然とともにあって人のぬくもりのある>生活に触れたことがアレン少年の心に引き起こした反応は、きわめて屈折したものです。自然とぬくもりの中で少年は決して癒されません。むしろ、「ここは自分がいてはいけないところだ」という思いにとらわれ逃亡します。その過程で自分自身の良心の影にすらおびえるようになるアレンは、魔女の手に落ちます。否定的な自己像に囚われた少年の姿は、現代の若者をよく見ていると思います。
しかし、自分として肯定的に評価できる点は、残念ながらほぼこの点に限られます。以後はほぼ否定的な評価になります。

「ゲド戦記」に描かれる社会

「ハウルの動く城」もそうですが、描かれる社会の構造のほうはいっそう浅薄なものにとどまっています。「ゲド戦記」における社会悪の原因はどうやら、魔女の悪意にあるらしいのです。永遠の命を手に入れることをめざす魔女。これはちょうど生命をも制御しようとするかのような現代科学文明の姿を表現したものでしょうか。これは「自然の摂理に反すること」ですから、自然の反撃が起こり、問題が吹き出している、ということです。
これは2重に疑問です。現実社会における問題の原因を、現代科学技術そのものに帰するという点です。一方で伝統的な自然的農法に基づく生活を全面的に礼賛しています。本来、人間が科学の力で自然の仕組みをより深く解明し、それを生活に生かすことそのものは何ら否定されるべきではないと思います。また、伝統的農法のいい面はあるかもしれませんが、商品経済のもとで、あるいは食料増産のために、そして農村の人びとの生活水準の向上のためにも、農業生産方法の近代化は必然でしょう。むしろ農村の人びとの方がそう思いそうです。都下に住む人のノスタルジーだけで農業を語るのは良くないでしょう。
提示されている問題と、解決の道筋との関係が、上記のようにまったく説得力を持たないため、魔女が滅ぼされたラストをもってしても、導入部で提示された世の中の問題がなんら解決されません。何のためにこの問題は提示されたのか?
さらに、社会悪の根源はある特定の個人の利己的な思想だという構造になっています。この悪人を滅ぼしさえすれば問題は解決します。特定の極悪テロリストを成敗すれば社会が良くなるというのは、一部B級ハリウッド映画の水準です。
「良いもの」と「悪いもの」が固定的に配置され、そこにはそれらのあいだの相互関係もないし、それらの生じる必然性もありません。
ジブリの新世代にはおそらく、社会構造を現実的な形で構想してそこに生起する問題を内在的に措定し、その構造のもとで現実的に判断をして行動をする登場人物を配する力量がないのでしょう。この力量を持つには確かに社会構造に対するそれなりの深い認識が必要になります。宮崎・高畑はこういう視点を持った上でアニメーターとなった希有な例だったのかもしれません。こういう巨人はもうしばらく現れないのかもしれません。

過去の枠内から一歩も出ない表現手法

あちこちに過去のジブリ映画に用いられた手法がちりばめられています。もののけ姫の腕切断場面。ぐちゃぐちゃの祟り神あるいはでいだらぼっちの姿。龍に乗る主人公。千と千尋の神隠しにおける本当の名前に込められた誇りが果たす役割。発想が貧しいです。

登場人物の貧困・守るに値しない村

おしなべて登場人物に魅力がありません。固定的なイメージを背負った特に変化のないキャラクターが登場しますが、この映画を観ていて、ファンとなるような登場人物がいません。
例によって、周囲の市井の人びとはまったく積極的に物語に絡むことがありません。一部の魔法使いたちの空中戦が世界のすべてを決めるのみです。市井の人として出てくるのは、魔法使いを異質の存在としてただ恐れ、嫌うくせに利用することだけはずうずうしい近所のオバタリアン2人組。これほどつまらない人ばかりの住む世界ならば、何も守る必要はないでしょう。
高畑はかつて、「ホルスの映像表現」の中で、「守るに値する村」について語っています。ホルスは決して卓越した力で村のかわいそうな人びとを救うのではない。村の人びとに生かされて力を発揮するに過ぎない。そうであるならば、村とそこに住む人びとが、守るに値する、あるいは自ら守られるに値する村として描かれる必要があります。「ゲド戦記」にはすでに「守るに値する村」は存在しません。また、自ら問題に立ち向かう人びとも存在しません。ある意味でこの姿こそが現実の反映なのかもしれませんが、このような世界をあらためて見せられても、何の展望も見いだすことができません。子供たちが観ても、わくわくすることもないでしょう。

宮崎はあきらめていない

今回も制作の過程で起用予定の監督との間のトラブルがあったように聞きます。結局誰かに任せきる立場に宮崎が立てなかったのでしょう。彼はそろそろあきらめた方がよいのではないかと思います。次世代は次世代です。これから何十年かけてあたらしいジブリをつくっていきます。
われわれ自身現実の世界において、前世代に及ばない実力を思いしらされながらも新しい世代の現実をつくることを引き受けなければなりません。惨憺たる仕事から始めることになるかもしれません。でもそこを引き受ける勇気を僕らは持たなければならない。
こういうメッセージだと思えば、ある意味で「ゲド戦記」は傑作だといえるかもしれません。しかし本当は、生きた現実の中で自分を見いだす少年の、心躍る物語が観たかった。

とりあえず他の評論やブログなどを見てしまう前に、最初の自分の内面からの生の感想を、ここに書きつけておきました。
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